まなぶ,みがく。

自分で学び、自分を磨く。学習と研鑽にいそしもう。

原稿用紙

まだ、何も書いていない原稿用紙に向かい、ペンを握った瞬間。そこには、無限大の想像世界が広がっているはずなのに、ひとたびペンを走らせると、陳腐で手垢まみれの表現しか表れず、拙い創造世界しか書けない自分に、ひどく苛立ちます。
周囲が灰色の世界に見えてきて、四方の壁が自分に迫るようです。
書きかけの原稿用紙を破り捨て、もう一度、真っさらな升目と対峙したところで、新しいアイデアが浮かぶこともなく、私は、頭を掻きむしるばかりです。
そこへ、本の虫が現れ、原稿用紙の上でピョンピョン跳び跳ねています。何か、私に向かって叫んでいる様子なので、耳を近付けてみました。
「うまく書こうなんて思うな、お前には、無理なのだから。感じたままを、書けばいいのだ。一人くらい、その思いに共感してくれる人も、あるかもしれないじゃないか」
言い終わると、本の虫は、大きくジャンプして消えてしまいました。
感じたままを書く。私には、そうするより他ありません。余分なレトリックを排して、思いをストレートに表現するだけだ。自分に言い聞かせて、再び原稿用紙に向かい、ペンを握っていました。
周囲の壁が狭めていた自分の空間は、少し広がり、灰色に、少し朱色が滲んできたようです。