まなぶ,みがく。

自分で学び、自分を磨く。学習と研鑽にいそしもう。

納税窓口にて

幾週か前の月曜日、ある役所の納税窓口に僕はいた。
僕がそこにいた事情はこの際どうでもよい。
そこで僕はこんな光景を目にしたのである。
 
しわくちゃのシャツを着てヨレヨレのズボンを穿いた老人が、
ズボンのポケットから丸めた一万円札を取り出し、
窓口の女性職員に向かってそれを投げ付けた。
「俺はひと月七千円で暮らしてんだ。一万円の税金を払うためにな」
老人は、女性職員を睨みつけてそう言った。
女性職員は、投げられた札を拾い、
丁寧にしわを延してから老人に言った。
「納付書はお持ちでしょうか」
乾いて凛とした声が、老人の鼻先で浮遊していた。
その声に気圧されるようにして老人は、
もう一方のポケットからやはりしわくちゃの納付書を取り出した。
 
もう幾週か過ぎた今でも、
あの渇いて凛とした女性職員の声が、
僕の耳にはっきりと残っている。
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